ある町には、こんな噂話があるのだという。 『雨が降っていても、雪が降っていても、どんな日でも図書館に行くと、いつも同じ女性が、同じ席で本を読んでいる』というものだ。  実際に、いくつもの人がそれを確かめようとしているのだが、その女性はいつの間にか図書館にいるのだと言う。そして、閉館時間ぎりぎりになって見ると、いつの間にいなくなっているのだ。  彼女が何時からその図書館に来ているのかは分からない。気がついたときには、既に彼女はその図書館にいた。  幽霊じゃないのかと言う話もあるが、その女性と会話をしたことがある人もいて、人間であることは確かなのだ。が、それ以外の事が分からない。  ただ一つ分かっていることがあるとするならば、その女性が非常に本を愛しており、本の知識を大量に蓄積してきた人である。と言う事だ。 町の人たちは、その女性に対して親しみを込めて、『図書館の隅っ子』と呼ぶ。 「恭介?」 「呼んだか?」  私の呼びかけにつけていたイヤホンを耳から外して応答する男。司書がイヤホンで音楽聴きながらカウンターに座って良いものなのだろうか。駄目なんだろうと思う。 「昨日言い忘れたんだけどね、新しい本を数冊入れてほしいんだけど。駄目かな?」 「何て本だ?」 「えーっと、『散り往くものへの応援歌』、『家政婦は魔女』、『FNSへようこそ!』って本なんだけど」 「却下。全部ライトノベルじゃねーか」 バッサリとこちらのおねだりを真っ二つにしてくれた。酷いぞこの男。 「なんでよ!何で駄目なのよ!」 「お前のリクエストしたライトノベルだけでライトノベルのお部屋が出来るぞ。別の本も読め」 「いいじゃない!ライトノベルなんて名前ばかりで色んな内容あるんだから!」 「だったら自分で買え。それを寄贈してくれたらおいてやる」  最低な事言ったぞこいつ……という言葉を飲み込んだ私は、唸っても相手にしてくれない京助の頭を殴ってストレスを解消した。                         この先は実際の本をご覧ください!